坂下理紗

ナノティス株式会社 CEO

「唾液で、どこでも、誰でも、迅速な検査」の実現を目指す

ナノティスは2016年の創業以来、インフルエンザをはじめとする感染症を対象に「唾液で、どこでも、誰でも、迅速な検査」を実現する、次世代の検査デバイスの研究開発を行う東京大学発ベンチャーです。

今回、GSCCが発足後初めて出資を行ったスタートアップである、東京大学発ベンチャー「Nanotis」の坂下理紗CEOにインタビューを行いました。

坂下理紗

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了後、証券会社等に勤務。技術マッチングサービスのスタートアップ企業で執行役員を務めたのち、Nanotis株式会社を創業。

起業したきっかけを教えてください。

祖父が開業医だったこともあり、人類の健康のため、広く医療従事者に貢献するような事業に携わりたいという思いは昔からありました。また修士課程修了後、証券会社やスタートアップ企業でのマネジメントの経験を活かして、科学技術や物理学に貢献することが私の人生のミッションと感じていました。

2016年に偶然ご縁を頂いた東京大学の研究者の方々からスタートアップを起こさないかとお話があり、まさに私のミッションである医学、科学技術の両面に貢献できると感じ、思い切って創業しました。創業の際のミッションとして、病魔と闘う全ての人に迅速・的確なnotice(社名の由来になっている)、すなわち気づき、お知らせを提供することを掲げました。医療の現場において診断こそが病魔と闘う第一歩であり、的確な診断を行うことが治療や感染症の拡大防止の大きな力に繋がると感じたからです。

初めのターゲットとして感染症、そしてインフルエンザにフォーカスした理由はなんですか?

東京大学で実験を行うNanotisのチーム

呼吸器感染症は治療、感染拡大防止双方の観点から初期の診断が非常に重要な疾患であり、我々のミッションに合致することはもちろん、目指す技術がもっとも有効に機能すると考えました。たとえばインフルエンザ薬であるタミフルは、発症から48時間以内に投薬する必要があります。また感染症の中でもインフルエンザを選んだのは、感染症にしては珍しく毎年一定数の患者がおり、長期的に見れば人類の歴史の中で必ず繰り返しパンデミックを起こすウイルスだからです。

さらには我々が開発している診断技術は呼吸器感染症全般に応用可能なプラットフォーム技術であり、インフルエンザはあくまでも第一ターゲットとして考えています。実際2020年初旬から新型コロナが世界で猛威をふるい、結果として我々が想定していたコンセプト、すなわち「唾液で、使用者の手技によらず簡単、迅速で安価な検査」の有用性が改めて認識されているという状況です。

インフルエンザの後のビジョンを教えてください。

2021年6月の現時点では、先進国では新型コロナのワクチンが普及しつつありますが途上国ではまだ道のりは遠く、また変異型も次々と登場しており、当面「検査」のニーズは世界的に継続すると考えています。しかし現在、新型コロナとインフルエンザに対して唾液で同時に検査できる簡易検査キットはありません。我々の技術の最大の優位性は、検出できる濃度の幅が広いため、唾液中のウィルス濃度が高い新型コロナウィルスも、唾液中の濃度が低く鼻腔ぬぐい液の採取が必要なインフルエンザも、両方を同時に唾液から検出可能なことです。

また歴史的にも呼吸器感染症は5年から10年のスパンで必ず新しいウィルスが世界的に流行しますが、世界的に感染症への危機意識が大きく変わった今、これから出現するであろう新規ウィルスに関しても同時に検出できるプラットフォーム技術は、引き続き大きな需要があると考えています

スタートアップを経営する上での苦労はありますか?

まさに資金調達です。残念ながら国内では、まだまだ初期フェーズの技術系スタートアップに対し、技術を理解・評価したうえで出資をしようとする投資家の層は厚くありません。専門の技術人材を抱える投資家でない限り、要素技術の開発から始まるいわゆる「テックドリヴン」なスタートアップに関しては、技術の評価ができないと出資しにくいというは当然のことだと思います。

その中で、なぜ浜松ホトニクスからの出資を受けようと思いましたか?

光技術における世界のリーディングカンパニーである浜松ホトニクスから技術をご評価頂き、私もメンバーも大変光栄に感じました。また実際にお話を伺うと晝馬社長を筆頭に社員の皆さまが新しいイノベーションに対するパッションを強くおもちで、株主として参画頂ける機会を大変有難く感じました。実際その後の資金調達でも、浜松ホトニクスから出資されているという事実は大きなアドバンテージになっています。ぜひ技術系スタートアップ企業を評価・支援できる貴重なCVCとして、積極投資を続けていってほしいです。

 

また個人的にも、東京大学修士時代に私が所属していた研究室のある理学部1号館に小柴ホールという施設がありまして、エントランスにはカミオカンデに使用されたものと同じ大きさの光電子増倍管が置いてあり、毎日通学の際に眺めていました。浜松ホトニクスという会社は、私にとって学生時代からの憧れのアイドルのような存在です。(笑)

 

カミオカンデに使用された20インチ光電子増倍管

浜松ホトニクスが出資後、どういう面で御社をサポートできていると思われますか?

私はもちろん弊社取締役CTOの宮崎とも、電子管事業部の皆さまと折に触れてディスカッションの機会を頂き大変良い刺激を頂いております。現在は研究開発のフェーズですのですぐにではありませんが、将来的には光技術を応用した検出機器の設計等でご相談することもあるかと思います。

これから期待する浜松ホトニクスからのサポートは何ですか?

直近目標としている技術原理の確立、プロトタイプ完成の暁には、次のステップとして技術提携を前提とした資本業務提携、ゆくゆくはM&Aもご検討頂ければと希望しています。まずはしっかりご評価頂けるよう結果を出すことが最優先ですが、手前味噌ながら弊社には技術はもちろん医療機器の製造・販売面に精通したメンバーもおりますので、将来的な体制構築も含めてご相談の機会を頂ければ幸いです。

本日はインタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました。最後に本インタビューを閲覧して下さっている方々へ一言おねがいします。

Nanotisは、この技術を一日も早く感染症診断の現場へ届けることを最終的なゴールとしており、前述の通り将来は事業会社様との連携やM&Aも視野に入れて開発を進めています。まずは貴社を含め、事業会社様に評価してもらうことを第一に研究開発を進め、ご評価頂けた暁には、その事業会社様の医療機器、特に体外診断領域に進展・拡大する足掛かりとなれればと考えています。また、資金調達や人材採用も積極的に進めていく予定ですので、ご関心のある方はぜひお気軽に弊社ウェブサイトからご連絡ください。こちらこそ本日はありがとうございました。

 

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